東日本大震災10年の軌跡
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東北六魂祭のベースともなった東北夏祭りネットワーク東北六魂祭が仙台で開催されたのは震災からわずか4カ月後、2011年7月のことである。この話が持ち上がったのは、当然、震災の後のことであり、常識的に考えれば圧倒的に準備期間が足りなかった。そうした中、東北6市という広域的な連携を要するイベントを、これほど短期間で開催できた背景には、各県庁所在地市長の強いリーダーシップとともに、震災前から東北6県の商工会議所と祭り主催団体で組織してきた「東北夏祭りネットワーク」の存在があった。「東北夏祭りネットワーク」は、東北6県の県庁所在地で開催されている、「青森ねぶた祭」、「秋田竿灯まつり」、「盛岡さんさ踊り」、「山形花笠まつり」、「仙台七夕まつり」、「福島わらじまつり」の6つの夏祭り主催団体と、6商工会議所で、2009年2月に設立し、首都圏での共同キャンペーンなどを行っていた。そして震災前年の2010年度には県庁所在地以外の夏祭りにも参画を呼びかけることで、東北6県45商工会議所のうち、35商工会議所38夏祭りによる連携体制を構築していた。各地の祭りは、商工会議所が事務局機能を持っているか、または主催組織の中核を担っていることが多い。東北六魂祭は、東北の夏祭りシーズンが本格的に到来する前に開催し、その上で本番の祭りに全国から人を呼び込むという目的があった。その目的を達成するためには準備を急ピッチで進めなければならない。その状況下で、県境をまたいで急ぎ各地の連携を深めていくのに、東北夏祭りネットワークが果たした役割は非常に大きかった。なお、東北夏祭りネットワークは、2012年3月、春・秋・冬の祭りにも拡大し、「東北まつりネットワーク」へと進化した。参加団体を東北6県45商工会議所139祭りに広げ(結成当時)、四季の祭りを検索できるポータルサイトを運営しているほか、JR、航空会社、東北観光推進機構などの協力を得ながら、さまざまな媒体、催しを通して、東北の祭りを共同でPRしている。また、東北6県への視察・訪問誘致と、観光・地域情報発信を目的として、「今こそ、東北へ!」と題した2種類のパンフレットも制作するなど、さまざまな形で、積極的に東北への来訪を呼び掛けながら、復興を推し進めてきた。復興に向かう過程で、祭りというコンテンツを核に醸成されてきた一体感は、東北にとっての大きな財産と言える。そのベースの一つとなったのがまつりネットワーク、引いては東北6県の商工会議所ネットワークである。これからもこうした連携を密に、震災、そしてコロナ禍で疲弊した東北の経済回復に取り組んでいく。成長する東北の観光東日本大震災によって、東北の観光は大きく落ち込んだ。特に訪日外国人旅行者数については、日本全体として3,000万人を超える中、東北のシェアは1.5%程度と、未だ震災前に届かない苦しい状況が続く(コロナ禍前の2019年時点)。しかしながら、東北の観光は確実に上向いている。それは、外国人延べ宿泊者数を150万人泊とする政府目標が、達成時期としていた2020年より1年前倒しで果たされたことからも分かる。その理由としては、2016年度から交付されている「東北観光復興対策交付金」など、国による各種支援第1部東北六魂祭のベースにもなった「東北夏祭りネットワーク」は、枠組みを四季の祭りに広げ「東北まつりネットワーク」に進化した(2012年3月15日)。仙台商工会議所 東日本大震災 10年の軌跡54

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