東日本大震災10年の軌跡
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被災地で浮上した新たな課題解決へ被災地では、各地からの支援と企業の懸命な努力によって復旧・復興が少しずつ進み、生産体制は徐々に回復していった。しかし、一方で新たな課題も浮上してくる。それが、失われた販路の回復、そして開拓であった。震災後、多くの生産者や加工業者が被災したことで小売店舗などは既存ルートでの仕入れが困難になった。しかし店を開けている以上は棚を空けたままにしておく訳にもいかない。地域へ安定的に物資を供給するという使命もある。やむを得ずそれまでとは別のルートで商品確保を図るのは無理からぬことであった。これが、やっとの思いで生産を再開させた被災事業者にとっては大きな悩みの種となった。震災後に新しく構築された業者と小売店の関係性の中に改めて割って入っていくのは、いくら過去の取引実績があるからといっても、そう簡単なことではなかった。つくっても売れなければ事業再建へは程遠い。さらに被災地では人口も減少傾向にあり、企業としては、将来を見越して新たな販売先を探すことも先送りできない問題になっていた。そこで仙台商工会議所では、従来の経営相談機能と、全国の商工会議所ネットワークを活用した「販路回復・開拓支援事業」に着手した。商工会議所議員や識者で構成する「企画委員会」を設置し、準備段階として、2012年度は他団体が主催する県内外の商談会や展示会等に参加し現場の感触もつかみながら、被災地域のスタイルに合った支援の方法を模索した。本格稼働は2013年4月。仙台商工会議所内に復興支援専門の部署を設置し、バイヤー経験があり販路開拓のノウハウを持つ地元総合商社や百貨店のOB3人を専門コーディネーターとして常駐メンバーに加える体制を整えた。その上で、全国の商工会議所や地元支援機関、企業等のネットワークを活用し、首都圏、関西圏を中心とした百貨店、スーパー、食品販売関連企業などのバイヤーを招しょうへい聘する独自の商談会をスタートさせた。高い成約率を生む「伊達な商談会」とコーディネーターのサポート独自のスタイルで立ち上げた商談会は、「伊達な商談会」と名付けられ、当初は大きく分けて「個別型」、「集団型」、「バスツアー型」の3タイプでスタートした。基本形としての「個別型」は、月に2、3回程度定期的に行う事前予約型の商談会である。「○○との個別商談会」というタイトルで、商品の売り込み先となる「バイヤー」を全国各地から招聘し、「サプライヤー(売り手)」との1対1の個別商談の場をセッティングした。「集団型」は複数のバイヤーを招き展示商談と個別商談を併用して行うものだ。「バスツアー型(2018年から「現地開催型」に改称)」は「集団型」を仙台以外の地域で行うタイプで、一度に複数のバイヤーを被災地に招き、復興の状況や現地の生産体制などをその目で見てもらった上で商談を開くというスタイルをとった。記憶と経験を次代に継ぐ第3章販路回復・開拓支援事業伊達な商談会は、コーディネーター(右から2人目)が同席しフォローアップを行うのが特徴。復興に向けた次のステージへ 失われた販路を取り戻す143

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